第一章 決意

少年は鎧窓(よろいまど)の隙間から広場の様子を窺っていた。広場ではファラーと呼ばれる村の長(おさ)を中心に四、五十人ほどの大人たちが集まって、昨日山向こうまで様子を見に行ってきた者の報告を聞こうとしていた。

北に連なるグランターニュ山脈は、この地で、あたかも天の大鉈(おおなた)で削ぎ落とされたかのように断たれ、アトラスの盾と呼ばれる絶壁をそそり立てていた。

かつてはそれに連なっていたであろう南側の山脈も、同じく断層の白い山肌をこちらに向けて晒(さら)している。

山向こうとは、高い壁に挟まれたこの小さな盆地の村が唯一外部と交流できる東側の限られた一角のことである。

そこにはこの村と時折交流を持つ異民族の村々が点在しているのだが、このところ、更にはるか彼方(かなた)東方でとみに勢力を拡大した異国人の帝国が、その炎(ほむら)の先をちろちろと山向こうの土地にまで伸ばそうかという状況になっていたのだ。

山向こうの彼らにさしたる動きがなければ、事態はまだそれほど差し迫ったものとも思われなかったが、この村の人々がことさら憂慮するにはもう一つの理由があった。

彼らには退路がなかったのだ。

次回更新は10月13日(日)、18時の予定です。

 

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