第二章 善人面した悪人
翌朝、皆早めの朝ご飯を終え、瑠璃は病院に向かった。その日も混んでおらず、八時半前に着いた。早速エレベータで八階に行き、文子の入院している部屋に入った。同室の方に軽く会釈し、母のベッドの横に座った。母は丁度朝食を食べ終えたところだった。
「お母さん、おはよう」と瑠璃は母に声をかけた。振り向いた文子は、元気そうだった。
「瑠璃、やはり時間通りにきたのね。昨晩はあまり寝れなくて、窓から海を眺めていた。遠くのほうに漁火が見えて、まるで蛍のように奇麗だったわ。入院したご褒美ね。これっておかしい?」
「お母さんったら、どんな状況でもポジティブに考えるのね。私もそうだから遺伝かな……」と作り笑いをした。
「ところで、今日の診察時間。何時?」
「九時ごろ、看護師さんが呼びにきてくださるそうよ」
「あらそう。あまり時間がないわね」
「そろそろ準備しなくては」と文子が言いかけたころ、看護師の高崎由佳が入ってきて「一之瀬さん、おはようございます。具合はいかがですか」と問いかけた。
「ハイ、すこぶる元気です」と文子は笑みを浮かべながら返事をした。高崎は、丁度華音と同じ年ごろのように瑠璃には映った。瑠璃は遅まきながら、
「一之瀬の付き添い、娘の早乙女瑠璃と申します。母が色々お世話になります。よろしくお願いします」と丁重に挨拶した。
高崎はにこやかな顔をして、「こちらこそ。お役に立てるようお世話させていただきますので、よろしくお願いします」と言って頭を下げた。