第一章 イマジン

純二郎は瑠璃にすまなさそうな顔をして、

「ついつい長話になり、申し訳ございません。こんな立ち入った話は病院ではいつもしません。昨晩兄から、お母さんが空襲の語り部をされていたと聞き、そういえばテレビに出ておられたと気づいたものですから……。お引き留めして申し訳ございません」と謝った。

瑠璃が文子のベッドに戻ると、既に夕食が配膳されていた。

「瑠璃、どこに行っていたの?」「廊下の自動販売機の前で紅茶を飲んでいたら、高瀬先生と立ち話になったの。お母さん、冷めないうちに食べたほうがいいわよ」

「そうね、そうしようかしら」

「瑠璃、美味しいわ。病院の食事って期待していなかったけど、食欲があるのは元気な証拠なのかもね」と言いながら文子は平らげた。

「お母さん、食欲旺盛ね」

「この歳になっても、人間って貪欲な生き物なのね」

そんな母の姿を目にした瑠璃は安堵した。

食べ終わったのを見届けた瑠璃は、

「お母さん、そろそろ晩ご飯の支度をしなくちゃいけないので、私これで帰りますけど、明日何かもってくるものありますか?」と尋ねた。

「大丈夫よ、気を遣わないで」

「それじゃ、明日八時半ごろきますから、それでいい?」

「そんなに慌ててこなくても、用事をすませてからでいいよ」

「それじゃ、また明日くるから……」と言いながら病室を出た。

自宅に着いた瑠璃は、早速晩ご飯の支度に取りかかった。

ほどなくして華音が帰ってきて、

「お母さん、悪いわね。今夜は私が作るから、休んでて……」と慌てて二階に着替えに行った。

下りてきた華音はキッチン台の前に立って、

「お母さん、カレーライスでいいかしら?」と聞いてきた。

「そうね、昨日、一昨日とご馳走が続いたから今晩は簡単にしましょう」と瑠璃は心なしか疲れた様子だった。

華音がカレーを作り終えたころ、丁度真一が帰ってきた。

真一は玄関をドアを開けるなり、

「ただいま。いい匂いがするな」と上機嫌だった。「あなた、お帰りなさい」と瑠璃が玄関に行った。

「瑠璃、お義母さんはどうだった?」

「短気ね、お父さんは……。二度手間になるから、華音を交えて報告するので、先に着替えてきて」と瑠璃は少々いらだっていた。

真一は二階に行き着替えをすませ、すぐに下りてきてリビングのソファーに座った。

華音は作り終えたカレーライスを器に盛りつけ、サラダを作りながら、

「今日は、そっちで食べましょう」と提案した。

「そうね、それがいいわ」と瑠璃が応えた。

華音は、すぐにソファーの前のテーブルに、カレーライスとサラダを置き、

「お父さん、お母さん。お水でいい?」と半ば強制するように聞いた。

「お水でいいよ」と二人は口をそろえて応えた。