聴覚は発話と連動する

聴覚に障害のあるヒトは、発話障害を伴うことが多い。眼から得た情報に基づいて、手指が動く。同じように、ヒトは自分の音声を聞きながら、発話のための調音器官を動かす[杉江昇、大西昇,2001]。聴覚は、発声器官とともにヒト言語の条件である。

聴覚認知は構造保持が苦手

視覚は、空間記憶ができ、構造の把握ができる。一方聴覚は、それらが苦手である。

音響的言語は、時系列情報である。短期記憶に入っても、視覚のようには繰り返し再確認することができない。そして、音声は消え去る。そのため、ヒトは聴覚から少ない量しか情報を把握できないし、複数の情報を安定的に保持できない。音響的言語は、文字という空間的言語と相補う必然性が出てくる。また、音声をアプリで使うときに、インターフェイスで考慮しなければならない点である。

③ 嗅覚

ヒトは嗅覚を退化させた

嗅覚は、揮発性ないし水溶性の化学物質を感知する。味覚は、同じ化学物質でも接触感覚である。嗅覚のほうは、分子の組み合わせレベルの微細な感覚である。嗅覚が発達した動物では、識別できる刺激の種類は膨大になる。犬は、散歩途中の道端の叢くさむら、車で通る街角、ヒトの手足、なんでも嗅ぎまわる。

ヒトの嗅覚受容体数(種類数)は396個あり、実はそれらの組み合わせで10万種類のにおいを感知できるという。遺伝子レベルで見ると、哺乳類の嗅覚に関係する遺伝子は大きなファミリーをなしている。動物にとって、嗅覚は環境探知の重要な手段であった。ヒトでは、匂いで昔を思い出すということがよくいわれる。匂いの刺激は感情や記憶をつかさどる脳部分に流れ、即座に反応できるようにしていた、という時代の名残らしい[東原和成(とうはら かずしげ). (日付不明).嗅覚の匂い受容メカニズム.2015.]。

従来のコンピュータに、嗅覚は無関係だった。一方、アロマセラピーなど、匂いでヒトの神経や身体に作用するという術がある。将来、状況に応じて、匂い成分を配給する機械というのもありうるな。