「死亡推定時刻が出しにくいな」

「そうなりますね」

「生きたまま入れられた場合、冷蔵庫の温度や周囲のものにも影響を受けるが、三時間程度で低体温症になり心肺停止に陥るだろう」

深瀬は冷蔵庫の脇にかかったエプロンやキッチンの棚を見て、真新しい包丁、調理道具を確認した。

二十畳ほどあるリビングダイニングには、四人掛けのグレーのローソファが一つ、大型の液晶テレビが一台、他には小さい暖炉やこだわりのある手作りの家具やオブジェが並んでいる。

庭に視線を向けると、手入れされた花や、仕かかり途中の資材や工具、バーベキューセットや椅子などが目に映った。

深瀬は窓際に飾ってある家族写真を手に取った。

「本当に、何があったんでしょうか。こんな普通の、仲の良さそうな家族に」

笹井が声をかけるが、深瀬は黙ったままバスルームの方へ目を向ける。

「次はあっちか」

「えっ、何故わかるんですか?」

「わかるものはわかる」

リビングダイニングから二人は移動する。玄関を抜けてすぐ右手にバスルームはあった。浴槽に、全身をワイヤーで縛られ顔まで水に浸かった遺体が沈んでいる。

「秋吉冬加ちゃん。十五歳で、藤中学校の三年生ですね。音楽が好きだったようで、藤市内のヴァイオリン教室に通っていたそうです。非常に優秀で、学級委員も務めていたとか」

「外傷は」