アイアムハウス
一
キッチンの奥に大きな業務用冷蔵庫が置かれている。笹井の手がいったん震え、それでもドアを強引に開ける。中には、手足を曲げた遺体が入っていた。彼女は髪を明るい色に染め、パーマもかけている。
「この方が、秋吉夏美さんです。三十九歳。十燈荘内の藤フラワーガーデンでパート勤務していました。十五年前に東京で秋吉航季と結婚。授かり婚で、翌年には双子の長女、長男が生まれています」
笹井がチラリと遺体を見た。その肌は冷気に晒され凍りついている。
「出身は十燈荘か?」
「いえ。父親の秋吉航季さんはこの藤市出身だったようですが、夏美さんは横浜出身です。航季さんが大学生の頃に東京で出会ったようですね。どこで出会ったかなど詳細はまだわかっていません」
「外傷は?」
「ありますね。ただ、争った傷かどうかはわかりません」
「出血はほとんどないな。首に絞められた跡もない。そして注射痕がある。凍死の可能性が高いな」
深瀬は遺体を舐め回すように見てから冷静に告げる。
「睡眠薬を打たれ、意識を失った状態で監禁され凍死したってことですか」
「司法解剖し、血液と胃の中に残っているものを調べろ。睡眠薬が使われたかどうか確認したい。しかし、業務用冷蔵庫か……」
「十燈荘は店がほとんどありませんから、買いだめ用にこういうものを置いている家は珍しくないようですよ」