「身代守(しんだいもり)」
「源次郎、お前は口が達者で相手をその気にさせるのが上手い。算盤は桝井屋の手代よりも達者。正助のついでにと習わせた絵の腕は師匠も認めるほどらしいな。清三郎は、着物の色合わせがダントツに上手い。お前の考えた組み合わせを気に入って買っていく客が多いそうだ。骨董の目利きや茶の湯の道具の組み合わせも達者だと桝井屋が言っておった。
引き取ったからには一流の商人に仕込んでみせると豪語しておったぞ。桝井屋から見て、お前達は一流の商人になる素質があるという事だろう」
そう一気に言った新之丞は、二人を代わる代わる見た。しかし、新之丞は二人が武士に向いていると思うと言い出したのだ。
「源次郎は、町奉行所や火盗改めなどが向いているのではないか、絵が得意なら、下手人の似顔絵も描けるだろうし、口が達者なら証言も集めやすかろう。腕も立つから捕り物でも後れは取るまい。
清三郎は手先が器用で、物の良し悪しが分かるなら御細工所などが向いている。清三郎は気使いが出来る質だから、様々な御役目との調整をする御細工所でも上手くやっていけると思うのだが」
御細工所とは、江戸城内にある様々なものの細工を行なう工房だ。城内の建造物、天子様への進物、将軍家の調度品を製作する役を担っている。無論、製作を行うのは江戸だけでなく、京や大坂から集められた腕利きの大工や職人だが、御役目の監督などをこなすのは御細工所配下の武士たちだ。