『はじめまして、諸君。私の名前は“小人(こびと)”だ。今上演された人形劇に出てきた、醜く小さな“小人”だよ』

「こびとさん、しゃべるの?」

凛が首を傾げるが、ゴンドラ内の声はスピーカーの向こうには届かない仕組みになっている。

『さて、時は正午を過ぎた。君らにはこれから時計の針になってもらう』

仲山含め、ゴンドラに乗った人々は口をぽかんと開けたまま耳を傾ける。

『そこからの景色はさぞいい眺めだろう? それに、時計台の喜劇もよく見えたはずだ。楽しんでくれたかな? ……しかし本当の喜劇はこれからだ。もうじきドリームアイからの通信を遮断する。ま、つまり携帯電話が使えなくなるということだ』

これはサービスだよ、と『小人』を名乗った人物が告げる。

『家族へ言い残すことがあるなら早めに済ませるんだな』

冷たく響く声。それはコンピューターや機械で作られた人工的な音だ。性別はおろか年齢の把握もできそうもない。口調は男性だが、と仲山は頭の中で分析を始める。続いて周囲を見渡すと、どのゴンドラにもこのおかしな声が流れていることが、人々の様子から見えてきた。

『今宵はクリスマスイヴ、何が起きようとも人は幸せに溢れ夢を語る。それは君らも同じことだ。……さあ始めよう』

なぜか楽しげな音楽が流れ、その直後、上の方からゴンドラの金具が揺れる音が響いた。ここより上にあるゴンドラは一つしかない。中年夫婦が乗っていたはずだ、と仲山は思い出す。

「まさか、やめろ!」

仲山はスピーカーに向けて叫んだ。

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次回更新は10月10日(木)、20時の予定です。

 

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