プロローグ
かつてイエス・キリストは反逆者とされ、ゴルゴダの丘で磔はりつけにされた。その話には続きがある。公開処刑の直後、一人の処刑人が十字架にかけられた男が死んだか確かめるため、自らの持っていた槍で罪人の脇腹を刺した。その際イエス・キリストの血液が目に入り、処刑人の視力は回復したのだという。
その槍は『聖槍』と呼ばれ、神の血に触れた聖遺物として大きく讃えられた。奇跡の逸話 。しかしそれは、磔になった男がその場で生き返ったという奇跡ではない。
一 午前…… 十時三十分 クリスマスイヴ
いつも待ち合わせの三十分前には到着している。それが仲山秀夫の唯一得意なことかもしれない。
仲山は、ドリームランド入園口脇のベンチに腰かけて、真新しい腕時計を握りしめた。時刻は午前十時三十分。約束の時刻は十一時。長く待つことになるだろうと思うと、体は自然に貧乏ゆすりを始める。
「冬だな」