寒風に吹かれながらそう呟いた。仲山にとって待つことは苦ではなかった。間に合わないことに比べたら、全然いい。間に合わないことがどれほど恐ろしいかを仲山は知っていた。つまり何事も先んじて行動すべきだと考えつつ、ふと呟く。
「……冬には黄色という色がよく似合う」
今、彼の視界に黄色いものは何もない。それでも仲山は色について口にした。入場ゲート付近は、家族連れやカップル、学生の集団で溢あふれていた。皆楽しそうで、風ふう采さいが上がらない四十代の男など見向きもされない。無精髭(ぶしょうひげ)は剃ってきたようだが、普段から身だしなみに心を砕いていないのは一目瞭然だった。
仲山の額にはしっとりと汗が光る。端から見れば、焦っているように見えるだろう。そもそも仲山は、極度の心配性なのだ。なぜなら今宵はクリスマスイヴ。当然のように、夢の国ドリームランドは大いに賑わっていた。こんなに人が多くて今日は楽しめるだろうか? 彼はそんなことを心配していた。
東京都湾岸に位置するドリームランドは、テーマパークとしてはかなりの老舗だ。美しい夜景で有名だが、海風が強く、設備自体はやや古い。広さは東京ドーム約二個分。テーマパークとしてはそこそこ小さめの規模である。
各遊具には錆が目立ち、老朽化は見ればすぐにわかってしまう。アトラクションやキャラクターショーのレベルもさほど高くはない。どこにでもあるメリーゴーランドやコーヒーカップ、そして大したことのないジェットコースター。それでも四季折々に咲く美しい花々と冬のイルミネーションという強みと、優秀なスタッフ達の支えにより、これまで運営は続いてきた。
遊園地のロゴは円の中に針があるデザインで知られている。時計に見立てると短針一つのみなので、ドリームランド側はこのロゴを時計と説明していない。いつ潰れてもおかしくない遊園地。その運営元は、大手不動産会社『帝国不動産』である。全国にいくつものビルを保有している大企業は経営に余裕があり、赤字続きのテーマパークを閉園にしなかった。
そして、満を持して登場したのが最新型であり日本最大級の展望型巨大観覧車『ドリームアイ』だった。仲山は、ポケットの中からチケットを取り出す。仲山秀夫・仲山凛、と二人分の名前が記載されているものだ。続いて仲山は、ベンチの隣に置いたぬいぐるみのお腹をさする。