「クマでよかっただろうか」
ついついそう口から出た。凛は小学三年生だ。九歳の女の子が好きそうなものなんて、一緒に暮らしていない仲山にはわからない。色々調べてはみたが、流行のものは外れるかもしれないと思い、無難にぬいぐるみにしたのだ。喜んでくれるかな、前よりずっと大きくなってるんだろうな。緊張と不安を振り払うように、仲山はジャケットの襟えりを揃えた。
その時、携帯の着信が鳴る。電話を取ると同時に仲山は腕時計に目をやった。
「はい、もしもし」
「仲山、私だけど」
冷たい声が聞こえてくる。
「電車が混んでるから五分遅れるわ、ごめんなさい」
五年前に別れた妻の惟子からの連絡だった。
「ああ、わかった。入り口の脇のベンチにいる。気を付けて来てくれ」
仲山がそう言うと、返事がないまま通話はプツリと切れた。あまりにも愛想のない声だ、と仲山は思う。冷め切った元夫婦というのは憎悪を通り越し無関心になると聞くが、そういうことだろうか? 業務連絡のような無駄のない会話だった。仲山は小さいため息を吐く。息は空気を白く染め、そして消えていく。雪は降っていないが、それでもかなり冷えるクリスマスイヴだった。
次回更新は10月4日(金)、20時の予定です。