二 午前…… 十一時三十分 ドリームアイ乗車

笑いながら優しい声をかけた老人は杖をつきながら道を空けてくれた。仲山達は、滝口に案内されて乗り場へと進む。

「さあ次だな。きっと綺麗だぞ、楽しみだな。わくわくするだろう」

ゴンドラが降りてくると静かに減速し、扉が開いた。乗っていた客が降りると、前のロープが外され、滝口が二人の乗車を見守る。自動でゴンドラの扉が閉まった。どうやら開閉は全自動で、手動で開けることはできそうにないがっちりした造りだ。

「行ってらっしゃい、素敵な空の旅を」

丁寧な接客だが、今時の若者らしさもある女性だ。おそらく大学生なのだろうと仲山は考えた。凛と向かい合って座ったところでゆっくりとゴンドラは動き出す。

「うわあ、思ったより早く動くね」

「あ、ああ」

「ねえねえ、もしかして怖いの?」

「怖くない」

仲山が冷や汗を掻きながらそう言うと凛はケラケラと笑った。今日出会ってからこんなに凛が笑ったのは初めてだ。それを嬉しいと思いつつも、仲山の汗は引っ込まない。そうしている間にもゴンドラはぐんぐんと高度を上げていく。次第に人々が豆粒のように小さくなっていった。

「凛、危ないから座っていなさい」

凛はゴンドラの窓からしきりに手を振った。ここからは見えないが、あのアメをくれた老人に向かってだろうと仲山は考える。続いて、きゃはは、と凛が声を上げてジャンプしてゴンドラを揺らしたので、仲山は更に焦った。実は仲山は昔から高所恐怖症なのだ。娘の前で格好つけたい気持ちがあって大丈夫だと思い込んでいたが、治ってはいなかったようだ。