外を見て座っていた凛が椅子から転げ落ちてゴンドラの床に倒れた。仲山は慌てて抱きかかえる。ゴンドラは左右に揺れていた。ゆらゆらというよりヨロヨロというような、不自然な揺れ方だった。
「凛、大丈夫か? 怪我はないか」
「う、うん。凄い揺れたね」
静かに周りを見渡し、仲山がぼそっと声を発した。
「止まった」
突如として巨大観覧車『ドリームアイ』が完全に停止した。何かのイベントなのかと仲山は一瞬思ったが、そんな情報に心当たりがなかった。インターネットで予約する時に徹底的に調べておいたのだ。これは明らかに予定通りでない出来事だと仲山は不安を覚える。
「ねえ、どうしたの? なんで止まったの?」
凛が不思議そうに窓の外を覗き込んだ。
「ああ、お父さんにもわからない。でも心配するな、大丈夫だ」
そう言って仲山は辺りを調べ始める。ゴンドラは四帖ほどの広さで、上にはボンネット、入り口は一つ、緊急用電話が一つ、アナウンス用のスピーカー、下にもボンネットが一つあった。
仲山は丁寧にそれらを確認し、続いて窓の外を見た。緊急事態の予感で高所恐怖症はどこかへいってしまったらしく、まるで別人のように雰囲気が変わる。事件に接すると、仲山の表情は自然とこうなるようだ。
しかし仲山のゴンドラからは、いくつかの斜め下の方にあるゴンドラの中しか見えない。角度の問題で一つ前と一つ後ろのゴンドラの様子は確認できず、仲山は更に他のゴンドラに目を向けた。そこでは、やはり乗客達が窓の外を見ながら慌てている。それを確認した仲山は、再び娘に視線を戻す。凛も同じように混乱している様子なのを見て取って、仲山はとりあえず、あまり外を見ないように娘に伝えた。
今現在、ドリームアイ以外の遊具は全て正常に動いているようだ。メリーゴーランドが回っているのを見た仲山は低く呻いた。どうやら何かしらの問題が起きたのは『ドリームアイ』だけらしい。事件性があるかもしれない、と仲山は心の中で思ったが、娘の前で無理矢理笑顔を作る。それから、ポケットにしまっていた腕時計をもう一度着け直し、時刻を記憶し始めた。
【前回の記事を読む】「ご、ごめんなさい」泣きそうな声を出す娘。老紳士にジュースをこぼしてしまい、クリーニング代や時計の弁償を考えていたが…
次回更新は10月9日(水)、20時の予定です。