運営局のメンバーに声をかけると、周囲は頷いて滝口に任せた。ドリームアイを担当するスタッフの年齢は様々だが、全員アルバイトで正社員はいない。普段からアナウンスを担当している滝口がマイクのスイッチを入れるのは自然な流れだった。

そもそも、ゴンドラ内への連絡方法は二つある。一つ目はスピーカーによる十二のゴンドラへの一斉通知。二つ目は受話器による個別の通話だ。今回は、スピーカーを使って乗客全員にアナウンスを行う。

「皆様、ドリームアイはただ今予期せぬ停止を致しました。これは安全上万全(ばんぜん)を期すための停止ですので、ご心配には及びません。既に復旧作業を始めております。お客様には大変なご不便とご心配をおかけいたしますが、今しばらくお待ちいただくようお願い申し上げます」

透き通った声からは焦りや緊張はほとんど感じられない。ドリームランドのスタッフは、アルバイトでも高いレベルの研修を受けている。

「この声、あのお姉さんだ」

「ああ、緊急時のアナウンスだ。すぐに動き始めるはずだ」

仲山は、娘の気持ちを落ち着かせようと頭を撫でる。その時、ティラララーンという場違いに愉快な音楽が流れ始めた。仲山が腕時計に目をやると、ちょうど正午であることがわかった。つまり、時計台の人形達が動き始めたのだ。

「ほら、凛見てみろ、あれがさっき言った人形劇だよ」

不安げな凛の視線が地上に向かう。そのタイミングで時計台から人形が出てきて動き出す。始まった人形劇は、姫に恋をした小人(こびと)が宝を見つけ、お姫様にその宝を見せるというものだ。

劇の間、仲山は見える範囲で他のゴンドラの様子を窺う。人形の動く光景を見て、それぞれが和やかな雰囲気を取り戻しているようだった。仲山が些少にも肩を下した時、もう一度アナウンスを知らせる音が鳴った。つまり、再度ゴンドラ内に一斉放送が流れたのだ。

『やあ、ごきげんよう』

おかしい、と仲山は思った。先ほど滝口という女性係員がトラブルをアナウンスした場所から、こんなにこやかな声が流れてくるのは変な話だ。しかも、ボイスチェンジャーを使っているような奇妙な声で。