気持ちを持て余したまま私は玄関の隅に座り込んだ。少女の顔が、共に服をたくしあげて一緒に駆けた草原のことが、男たちが彼女を暴行する光景が、頭の中をぐるぐる回る。私は今、自分が考えるべきは何なのかさえ分からないでいる。

「……お兄ちゃんは、間違ってないよ」

声に顔を上げると、白露が私を見つめていた。

「お兄ちゃんは、間違っていない」

絞り出すような声で、それでもはっきり伝えようとしている。そんな弟の体を抱きしめた。白露はその抱擁を受け入れて、いつ覚えたのか、私の頭を優しくなでてくれた。

あの子は、あの女の子は、今どうしているだろう。ふいに彼女の悲鳴が聞こえた気がした。草原で声を上げることさえしなかった少女の悲鳴は、彼女の足から外れて落ちたあの時の黄色の靴下のように、風の中に消えて聞こえなくなった。

「君はそれでも、よくやったのだ」

夢の中の幼年の自分に、私は語りかける。しかしながら、それはつまり「夢」でしかない。夢なのだ。私に届けられたもの。それはあの日の白露がくれた、ぬくもりだけではなかったか。

「なあ。どんな風に呼ばれようが、かまやしない。君は、……きみは!」

私の声はそこまでで途切れてしまった。まるで真っ暗な闇の中へと吸い込まれていくように、わらわらと意識がはがれ落ちてゆく。

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