第二章 飛騨の中の白川郷

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「はい。でも、やっぱり、そういう村の暮らしは五箇山も同じだったと思うのですが。どうして五箇山は公表していて、白川郷は今でも隠しているのか」

「うーん。確かにそうだね。越中と天領の違いかな。越中の方が進歩的っていうか」

「越中の方が進んでいるなんて聞いたら、河田さんが怒りますよ」

「ハハハ。この村の人は、いつまでたっても江戸時代のまんまの心だからね。今でも本気で富山を越中と言って、自分たちを天領って言ってるから。越中のこと、裕也は何か言ってたの?」

「はい、河田さんが越中の病院に行ったら、もの凄い美人の看護師さんがいたんだけど、話してるのを聞いたら越中弁で、すっかり興ざめしたって。どんな美人も越中弁なんか話してたら、だしかん(ダメだ)だしかんって」

「富山の人が聞いたら怒るね。逆に、富山の人は白川郷を山奥って思っているよ」

二人で笑った。この越中と天領の間に、心だけでなく実際に境界線があったことに深い意味があるとは、篠原はまだ気が付いていなかった。

こうして篠原は、世界遺産白川郷の経済基盤は何だったのか、というテーマの連載物は無理だとわかったが、なんで白川郷は秘密にしているのか気になるので、もう少し塩硝について調べてみようと思った。

そろそろ七月半ば、飛騨支局に戻らなければならなかった。また八月になったら長期取材を再開して、今度は五箇山にも行こうと思うのだった。