「身代守(しんだいもり)」

早苗の口元がわずかに緩んだ。清三郎に微笑みかけてくれた。たったそれだけの事なのに清三郎は、胸が熱くなった。

「お嬢様が、若様方がお困りの御様子なので、ご用向きを聞いてまいれと仰いまして。もしや、三崎屋の柏餅をお求めでしょうか。でしたら、私共も買い求めようと思っておりましたので、私が若様方の分も求めてまいりますが」

「それはありがたい。是非、頼む」

源次郎が喜んでその申し出を受け、柏餅を十個買ってくるように頼んでいる声が清三郎には遠く聞えた。早苗があそこにいる。声をかければ届く距離にいる。そのことで頭がいっぱいだった。

「それでは、お嬢様のこと御頼み申し上げます」

お六は足早に行列に並んでいく。その様子をぼんやりと眺めていた清三郎の頭を源次郎はぐりぐりと押えた。

「うむ、俺は茶屋の隣の饅頭屋が気になる。大いに気になる。故に清三郎、俺が饅頭屋に行っている間、早苗殿をしっかりお守りするのだぞ。ゆっくり話す機会などもう無いのだからな。後悔のないようにしろよ」

清三郎の淡い想いは源次郎に筒付けだったらしい。わけ知り顔でニヤニヤしながら去っていく兄に感謝したらいいのか、怒ったらいいのか、よく分からないまま、我に返った清三郎は慌てて早苗のいる茶店に走りよった。