第一章 トップ会談と候補者擁立

そんな中、武藤は自分と同じジャーナリスト出身の女性代議士に目を付けた。父親の後継として二〇代で衆議院議員に当選して以来二〇年以上の代議士経験があり、既に2回の閣僚経験もあった。

そんなことから武藤も一方ならぬ期待を込めていた。その為自ら慎重にアポを取り理事長室で面接試験に臨み、国家観、国柄、安全保障、積極経済等次々と賛同して、目を輝かせて聞いてくれていたのだが、文書滞在交通費の詳細な支出明細書を作成して、ネットで公開する事で政治と金の国民有権者の負託に答えると説明すると、明らかに不機嫌そうな顔つきになりいきなり、

「すみませんが、このお話はなかったことにして下さい! 心外でした、武藤先生ともあろうお方が未だに私にそんな目を向けていたなんて……。失礼致します」と言い残して部屋を出て行ってしまったのだ。彼女は武藤達の思いを完全に曲解した様に思えてならなかった。

そして次に北関東ブロックで衆議院議員として活躍している代議士として目を付けた人物は埼玉県選出の郵政選挙で造反し、離党を余儀なくされながらも無所属で当選し続け、今は与党に復帰している気骨ある代議士であった。

あの怒って帰った女性代議士の件から五日後、理事長室にその人物の姿があった。何時もの様に国家観、国柄、安全保障政策、選挙制度改革等の武藤の話を熱心に聞いて、所々で「全く同感です!」「その通り!」等と共感していたのだが彼の口を突いて出た答えは、

「せめてもう七歳、八歳若ければ喜んでそのお話をお引受けするのですが、私は現在六八歳です。任期中に七〇歳を超えるのは確実です。後進に道を譲るのが真っ当な政治家だと思っています。どうか私に真っ当な政治家として政治家人生を終わらせて下さい。私に代わってもっと将来のある若い政治家を育ててあげてください、お願い致します」と詫びる様に言って、深々と頭を下げた。

武藤はこの時、彼の気持ちを翻す術は持ち合わせていなかった。二人続けて断られた事で武藤は北関東ブロック内での小選挙区へ候補者を擁立する事を諦めざるを得なかった。

(しょうがないわね、北関東ブロックには有名で有力な人材を比例候補者として擁立するしかないわね)と心の内で呟いていた。