こうして武藤が新党立ち上げの核となる国会議員のヘッドハンティングを進めている最中、親交の深かった元参議院議員の仲川恵子が武藤を訪ねてきた。

アポなしであった為、三〇分だけと断ってから武藤はその面談に臨んだ。

「あら、お久しぶり、どうされたの、私を突然訪ねてくるなんて?」とちょっと怪訝そうに挨拶すると、

「突然押し掛けて来て御免なさい。お世話になった主人も政界を引退したんで、貴方には直接会って今までお世話になったお礼が言いたくて……。アポなしでご迷惑だった?」と言って仲川が返してきた。

武藤は内心(そんな見え透いた事言われても額面通り受け取れないわ、きっと何か魂胆があって来たはずよ)と思っていた。

そして、雑談を始めて五分ほどで仲川が訪問の目的について口を滑らせた。

「……というわけでまだ若くて有望な彼を貴方の立ち上げる新党に加えて欲しいの。人物は私が保証する。私が党首になった時、全身全霊で私を支えてくれた好青年なの」と強調した。

「ああ、元公共放送の地方アナウンサー出身の彼?……確か今、与党の参議院全国比例当選よね、でも初陣は選挙区選出じゃなかった?」と武藤が訊ねると、

「そう、最初は宮城県選出の参議院議員として当選を果たしたんだけど所属していた政党が解散して私の党に身を寄せたの。その私の党も解散したので今は与党の全国比例で選挙に臨んで当選したという経緯の持ち主よ」と仲川がこの議員の不遇を語った。

「若いのに苦労人なのね、それに私より右の貴方に使えたならその彼の保守は筋金入りなのでしょうね」と武藤が冗談めかして言うと、

「まあ、女右翼と言われる貴方より私が右?……」と言って返してきた。

【前回の記事を読む】「党にそこまで強いられることには承服しかねます。」北海道での小選挙区の戦いは諦めることに。

次回更新は9月16日(月)、8時の予定です。

 

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