「それなら、私たちで酒米から作ったらどうでしょうか? 私たちが田植えして、稲刈りして、酒蔵で仕込んで、全部手作りで! それこそ『女将の酒』という名前にして、世界でここだけでしか飲めないお酒にしたらどうかしら?」
「それはいいアイディアね。利き酒師の資格も一層活かせるし、お客様にも勧め甲斐があるわ」
「いいお土産にもなるしね!」
知世の発言に賛同の声が相次ぐ。親戚に造り酒屋がいる緑泉荘の山内由里は記憶を辿った。
「確か……うちの親戚の久保田酒造は、あわらの田んぼで酒米を作っているはずよ」
「それなら原料も純正のあわらの地酒になるわ! そんなお酒は日本中探しても、どこにもないわ。きっとあわら温泉の新名物になるわよ」
こうして「女将の酒」開発に乗り出した彼女たちは、早速久保田酒造へ協力を仰いだ。会議の二週間後、同会場で開催された「女将の会」で雅子会長は、「前回の『女将の酒』の件ですが、久保田酒造さんが快く引き受けてくださいました」と報告した。
「久保田酒造と契約している東山の『剱岳 (けんがく)ファーム』さんのご好意で、田んぼをお借りして稲作もご指導していただけることになりました」
喜ぶ女将たちに由里は付け加えた。
「じゃあ、今春から皆で田植えして、秋には仕込みましょう」
張り切った知世の一声に、他のメンバーたちも「さぁ、忙しくなるぞー」と一気に盛り上がり、やる気と期待を膨らませた。
五月、空高く雲雀がさえずる朝。あわら市東山の「剱岳ファーム」の水田には女将たちが立っていた。酒米の田植えをするためだ。普段の艶(あで)やかな着物を脱ぎ捨てて、思い思いの野良着姿で現れた。