不思議と行き着くのは夜の学校だった。骸骨は神社の傍の小学校のグランドに潜りこんだ。すぐ目の前に繁華街があるというのに、その小学校の周囲は暗く静かだった。鉄棒の杭に凭れて校庭を眺めていると、深い憂いに捕われた。
どうしてこんな所へ来てしまったのだろう。東京には何でもあると聞いていた。どんな人間でも受け容れる巨大な都市だと聞いていた。だがそれは本当だろうか。現に今行き場を失って、校庭の隅に潜りこんでいるではないか。
一体何のために生まれてきたのか、神様の悪戯なのか、そんなことは知らない。気がつくと生きている自身を感じていた。大切なのはそのことだと思う。でも半身筋肉男は厭世的だった。
生きていることは幸運でもなく不運でもなく、ただそれだけのことだと。何故かは知らないけれど涌くみたいに生まれ、寿命が尽きたら死んでいく。虫たちの営みを見ていてそう思うと。彼は窓辺でぶんぶん唸る蝿や桟の下で干乾びていく蛾を見ながら、そう呟いたのだ。
あそこで凝然としていればよかったのだろうか。あそこでなら授業中に廊下で出くわす子供を驚かすことも出来たし、夜中に校内をうろつくことも出来た。黴臭い部屋、澱んで動かない空気、うっすらと積もった埃。ホルマリンの匂い、剥製の動物たちの抜け殻の匂い。廊下の向こうの甲高い子供たちの声、パタパタいう足音、チャイムの音等々。そうだ、外に出なくても気晴らしはあったのだ。