その日、料亭で行われた高木教授への接待の宴も終わり、迎えのタクシーが料亭にやってくる。加藤は高木教授と玲子を見て後部座席に座ってもらい、圭にタクシー券と住所が書かれた紙を渡し、ドライバーの横に座らせる。

加藤は後部座席に座る高木教授に向かい頭を下げ、その日の礼を伝える。

「今日は本当にありがとうございました。ご自宅は西鎌倉と伺っております。東山の家も同じ方向にありますので、送らせます」

三人を乗せたタクシーは首都高速から入り、横浜方面に向かい走り始める。高木教授が、前の助手席に座る圭に声をかける。

「東山さん、玲子が今日の料亭での食事に、どうしても東山さんを誘って欲しいと言い出しましてね。営業部の加藤さんに電話でお願いして、東山さんを連れてきていただきました」圭が後部座席の高木教授に言う。

「玲子さんはとても素敵なお嬢様ですね」

高木教授が自分の横に座る玲子を見ながら、嬉しそうに話を始める。

「玲子は小学生の頃に母親を亡くしまして、それからずっと私と一緒に住んでくれております。玲子は母親が亡くなってから、しばらく精神的に不安定になり、とても心配したのですが、今は研究医として立派に仕事に励んでくれています」

タクシーが高速道路を走る中、高木教授はウトウトして眠り始める。一時間半ほどで車は西鎌倉の家に到着する。

圭は車を降り、後部座席のドアを開けて玲子と一緒に高木教授を降ろす。圭はドライバーに待ってもらい、すっかり酔った高木教授を支えて玄関の中に入っていき、二人で高木教授を家の中まで運び込む。

圭はタクシーのところに戻り、出てきた玲子に聞く。

「玲子、明日の波はサーフィンにはあまり良くない。俺は午後からスポーツジムだけど、どうする?」

嬉しそうな返事が返ってくる。

「じゃ、お昼過ぎに圭のところね。圭のジムに一度行ってみたかったのよ。私もトレーニングウェアを持っていって一緒に運動をしたいわ」

圭は「じゃあ明日、またな」と言い、待たせていたタクシーに乗って帰っていった。

次の日、玄関のインターフォンが鳴り、モニターには笑って手を振っている玲子が映っている。

圭はジム用のバッグを手にして外に出る。「玲子、ここから歩いてもジムに行けるけど、今日は玲子の運転する車で、ジムまで乗せていってくれないか?」

圭はジム用のバッグを手に、玲子が運転する車の助手席に乗り込む。

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