運命の出会い
玲子はぐい飲みにつがれた日本酒を一気に飲み干す。それを見た加藤が、冷酒を持って玲子のぐい飲みに酒をつぐ。
「この東山という男、サーフィンの腕前はプロ級ですよ」玲子が圭の顔を見てとぼける。
「東山さん、私も高校時代、父の仕事でLAに一緒に住んでいて、遊びでサーフィンをしていました。今度、東山さんにサーフィンを教えてもらおうかしら」圭はそう言う玲子の言葉を聞き、呆れてその顔を見る。
圭はそこで話題を変え、一度も聞いたことのない玲子の専門分野の話をかしこまって尋ねる。
「高木先生は、細菌やウイルスの研究をされているとお聞きしていますが?」玲子がまるで他人行儀に話を始める。
「そうですね、細菌やウイルスは、人類の進化とも密接な関係があるといわれています。細菌には人類の役に立つものも多いのです。ウイルスにもいろいろなものがあり、人間に感染するものが多くありますから、その取り扱いには注意が必要です。
私は東山さんの講演の中で、AIを使った画像処理技術に興味を持ちました。AIによる画像処理技術が、これからの細菌やウイルス研究の助けになっていくと期待しています」
そのこたえ方を聞いて、圭はちょっと笑い出しそうになる。
「高木先生は、細菌やウイルスの画像処理の技術に興味を持たれているのですね。それにしても、こんな席で高木先生にお仕事の話を聞くなんて、私も野暮なことをしてしまいました」玲子が真面目な顔で切り返す。
「東山さんは、オフの時はお仕事の話をあまりなさらないと言っておられましたよね。確か講演でのご自分のスーツ姿のことを言われるのもお嫌いでしたよね。でも、今日はお仕事でここにこられたのですよね。私、今日は東山さんのお仕事のお話をいろいろと聞かせていただきたいわ」
そう言って玲子は圭のぐい飲みにお酒をどんどんとつぎ、仕事の話をいろいろと聞き出していく。その日、料亭で圭と玲子は、普段二人が会っている時には全く話すことのない、お互いの仕事の話をずっと続けることになる。
玲子が化粧室に立って部屋を出ていくと、圭も部屋を出て廊下で玲子が帰ってくるのを待つ。玲子が戻ってきて、部屋の外に立っている圭の顔をジッと見る。
玲子は圭をからかうように笑いながら、圭の胸を軽く突いて部屋の中に入っていく。圭はなんだかこんな事態がとても面白くなり、化粧室に向かって廊下を歩きながら笑ってしまう。