気がついたらこんなことに

農作業で忙しい時でも、行きたい所や行かなければならない所があると、すばやく用意をして出掛ける。これは、私のストレス解消のためでもある。どこかへ出掛ける時は、必ずおしゃれもするし、お化粧もする。私の変身なのである。「農家の嫁のイメージも変わりつつあるぞ」と自負している。

そのかわり、夫の負担は大きい。私が夜に出かけると帰りが十時頃になってしまうこともざらである。夕食後の後片付けや、子供の世話、そして本業である野菜の配達の用意など、仕事はたくさんある。主婦が羽ばたくためには、夫や家族の理解と協力が必要であることを痛感している。

息子も中学三年になり、いよいよ受験の年だ。夏休みからクラブ活動をやめた三年生たちが、農園でアルバイトをさせてほしい」と言ってきた。それも何人もだ。きっと勉強に疲れているのだろうと思って「気分転換ならいいよ」と言ってOKした。

息子に「あんたもバイトすれば?」と聞いてみた。てっきり断ると思っていたのに、あっさりと引き受けた。

何人もの男の子がナス畑やスイカ畑で汗を流している。その中でも、わが家の息子がいちばん仕事がていねいで上手だった。バイト料をあげた時のみんなの笑顔がとてもかわいかった。

息子は「たったあれだけの仕事をして、こんなにもらえるのか」と喜んでいた。私たち夫婦は、息子がこんなにの農作業が上手にできるとは思ってもいなかった。そのことを本人に正直に話した。農業に対する息子との距離が少しずつ近くなったような気がした。

やがて、進路を決める時がきた。私たちは何も言わなかったのに、息子の方から「農業高校へ行く」と言い出した。そこは夫の卒業高校でもある。ハウスに石を投げていた息子が、農業の跡継ぎになるというのだ。私たちは嬉しかったけれど、半分は信じられなかった。

「無理しなくていいのだぞ」と言ったのに対し、彼は将来の夢を語り始めた。かつて、私が夫にコロッとまいった時のように、その表情は輝いていた。

その後、息子は夫と急接近し始めた。農業の話をどんどんするようになり、時には専門用語を使い、私が入り込むすきがないくらいだった。それがまた私には嬉しかった。