奥会津の人魚姫
(4)
確かに鍛冶内はもともと、女というものに懐疑的な見方を持っていた。どんな女にも大なり小なり魔性の気質が備わっており、自分の愛憎の目的を達するために、道具として涙の出し入れをしたり、空気を読んで心にないことを言ったりもできる生き物なのだと。
だから人間としての造りが違う男である自分には、どうしても理解できない領域がある。が、それを割り引いて考えても、乙音のあの自然な立ち振る舞いがそんな作られた作為的なものであるとは到底思えない。
騙されまいと、そっと心が身構えて、彼女の一挙手一投足を心密かに注目している鍛冶内だというのに、ここまでのところ乙音はそんな彼の前で、完璧なまでに思いやりのある純真無垢な女性であり続けているのだ。
仮にこれが作られた人工的なものだった場合、自分がこれまで培ってきた女性に対する見方というものを、もう一度根本的にひっくり返さねばならないのかもしれないと、鍛冶内はぼんやりと考えていた。
「乙音のことなんだが…………」