奥会津の人魚姫
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「鍛冶内さんはご存知かわかりませんが、保険の外交員なんて、こういってはなんだけど、数打ちゃ当たる、みたいなものなんです。私みたいに入りたての新人なんか、特にです。だから親戚という親戚、知り合いという知り合いには、私もひと通り声を掛けました。汐里ちゃんはもちろん3年間一緒の同級生だったけど、実は学生時代に話したのは、数度くらいです」
「ああ、そうだったんだ。高額な保険に入ってたと聞いていたから、てっきり成績を上げたい親友に頼まれたとばかり。では汐里ちゃんのアパートに行ったこともないですね?」
「アパートに下宿してるくらいは知ってましたが、行ったことはありません。それに別に高額な保険という訳ではないですよ。収入保証特約保険というもので、若い人たちを中心に今人気の保険です。汐里ちゃんはたまたま若かったから死亡保険金も高額になりましたけど、長い期間に渡り、万が一の時の死亡保険金が年々減っていくタイプのものなんです。
とはいえ、あまり親しくもない友だちから保険の勧誘を受けると、大抵は反応が良くないんですけどね。それどころか結構仲が良いと思ってた相手でも、露骨に嫌な顔をされたりして、ショックを受けることもしばしばでした。
でも汐里ちゃんは違ってた。こちらの話にすぐに乗ってくれて、あれよあれよという間に契約までいって……。しかも私その時初めて知ったんですが、汐里ちゃんそっくりの双子の方まで同じ保険に入ってくれて。正直ありがたかったし、良い子だな〜ってその時は思いましたよ」
「ちなみに汐里ちゃんが入ってた、その保険の掛け金は月々いくらだったかわかりますか?」
「細かい額までは覚えてませんが、確か5000円ちょっとでした。でもその後に本当に亡くなってしまうなんて……。汐里ちゃんの死を聞いた時にはとても信じられませんでした」
掛け金が予想外に低額だったのが、鍛冶内には意外な印象だった。死亡保険金が高額だったので、てっきり掛け金もかなりの額かと思っていたからだ。