祖母のことばは実感の伴わない歴史の一部のように、ナオミには響いた。その溝は三世の世代ではさらに深くなっているだろう、と彼女は思う。

そして四世のナオミはと言うと、大多数の同世代がそうであるように、普段は日系という意識はほとんどない。自分はたまたま黄色い肌を持って生まれたアメリカ人だと思っている。

ナオミは幼い頃からテレビアニメの『美少女戦士セーラームーン』が大好きだった。物心ついた頃にはアメリカでの放送は終了していたが、映画版も含め再放送やDVDで何度も見た。もちろん英訳された単行本コミックスも繰り返し読んだ。

おっちょこちょいで泣き虫の中学二年生、月野うさぎがセーラー服美少女戦士に変身して、仲間と力を合わせて、人間の生命エナジーを奪うダーク・キングダムの妖魔と戦う。その姿に息を呑み拍手喝采した。

伝説の秘宝「幻の銀水晶」と月のプリンセスを探し出せと言う、黒猫ルナの謎のことばにどれほど気を揉み、セーラームーンの窮地を救うかっこいいタキシード仮面こと、地場衛をどれほど心強く思ったことか。タキシード仮面のキザっぽいのに、どこかずっこけているセリフも楽しみのひとつだった。

興味を覚えた日本語で、読書もしてみたいと思い始めたのもこの頃だ。五年生が終わった夏休み、母リサの車で近くのサンタアナ公共図書館の支所に連れていってもらい、とりあえず入門用として絵本を探してみた。

すると、面白そうでしかも日本語版と英語版の両方がある絵本があった。アメリカに渡った鹿児島出身の絵本作家八島太郎の『からす たろう』と、英語版のCrow Boyの二冊を借り出して、家に帰ると早速読み出した。

【前回の記事を読む】【先行配信】カリフォルニア州サンタアナで三代続く庭師の家に生まれた日系四世のアメリカ人の私。日本の高校を受験するため三年ぶりに日本へ

次回更新は8月25日(日)、21時の予定です。

 

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