「光くんバイバイ」
可憐ちゃんは手を振りながら帰っていった。
早速プレゼントを開けてみる。
画用紙と二十四色のクレパスだった。今持っているのは十二色で、折れたり短くなったりしていたので、新しいのが欲しかった。
保育園で一緒にお絵かきしていた可憐ちゃんは気づいていたのかもしれない。
「僕、可憐ちゃんをお嫁さんにする」
唐突に宣言したので、父は目をパチクリさせて笑った。
「そうか、じゃあ早く大人にならなくちゃな」
「うん」
僕は大きく頷いた。
画用紙とクレパスがテーブルの上に並んでいる。僕は父の横に置かれた小さな椅子にちょこんと腰掛けると、クレパスを手に取った。
水色の空に赤、橙、黄色、緑、ピンクを使い、母の好きな彩雲を、長い時間をかけて描いた。空の下で僕と父、母、ふくちゃん、そして可憐ちゃんが笑っている。
「描けたよ」
横にいる父に目を向けると、テーブルの下に足を伸ばしたまま仰向けになり熟睡していた。僕はソファに置いてあった自分用のブランケットを父にかけ、横に寝そべるとゆっくりと目を閉じた。
鳴り響く電話の音で父が飛び起き、受話器を手に取る。
「はい、諏訪です……。なんだ沙代子か。どうした? ちょっと待って」
僕は父から受話器を受け取った。
「お母さん、まだ帰ってこないの?」
「光、ごめんね。お母さん帰る途中でケーキを落としちゃったの。それで今、ケーキ屋さんに戻ってきたんだけど、今年だけチーズケーキでもいいかな?」