愛しき女性たちへ
三
社会的にも、経済的にも、そして精神的にもスムーズに離婚出来るシステムが無ければ、結婚はただの奴隷制度になってしまうのではないか。男は恋愛の賞味期限を超えた妻のことは、自分の言いなりになるただの都合の良い家政婦にしか思わなくなってしまうのだ。
いや、家政婦ならまだいい方かもしれない。暴力や虐待の衝動、性欲をぶつける相手として婚姻関係を続ける男たちもいるのだ。
美月との付き合いが終わったのは、もう七、八年前だろうか。離婚は上手く成立したのか。仕事は順調だろうか。いい人が出来ただろうか。
たまに美月を思い出して考えてみたりするのだが、六十近くなっても美月の強さと絶妙なバランス感覚で、きっと今でも明るく前向きに、子供たちと過ごしたり好きな読書にふけったりして過ごしていることだろう。
秀司はそれを願わずにはいられない。
四
最近秀司は自分の年齢と体力の衰えをよく感じるようになっている。名刺には部長と書いてあるが、六十歳でポストオフとなってラインから外れ、年収は半減した。定年延長制度を利用して会社に残っているが、最終定年は六十五歳の誕生日。
好きな仕事なので特段の不満は無いが、若い上司の指示を受け、プロジェクトの性質や仕事の進め方に自分の考えや価値判断をあまり必要とされなくなると、仕事より自分のこれからの人生を考えることの方が優先順位が上がり始める。
建築コンサルタントとして独立出来るのはせいぜい五十代中盤くらいまでで、そういう方向での人脈作りも必要だ。他の企業に再就職するとしても、秀司の年齢では同じ業界でそれなりの報酬を得るのは極めて難しいだろう。