愛しき女性たちへ

「友達にも役所の中にも、離婚して一人で子育てしてる女性は沢山いるよ。でもこの国では離婚してシングルマザーとして生きていくのは旦那に我慢するより大変なのよ。経済的な問題だけじゃない。

世間の見る目やそれこそ役所の色々な手続き、子供の学校での肩身の狭い思い、保護者を巻き込もうとする学校の行事や教育の問題もある。税金も教育も、全ての社会の制度が四人家族で専業主婦というのを前提に組み立てられているからね。

役所勤めの私でもそう思うくらいだから、非正規雇用のママたちは本当に大変。病気なんか絶対出来ないよ」

日本の子供の七人に一人が貧困だと言われる中、ひとり親家庭の子供たちは二人に一人が貧困状態で、十分な環境で教育を受けられていない。

「ましてや娘は障害児だしね、軽いけれど」

美月の長女は自閉スペクトラム症と診断されている。発達障害の一つで様々な症状があるが、美月の長女は小学校三年だが対人関係が上手く築けず、学校でトラブルを起こすことが多いらしい。

一九九〇年代までは親、特に母親の「愛情欠如」が原因、などと考えられており、美月も自責の念にかられ、悩み、鬱状態になったこともあったらしい。

今は胎児の時から脳が平均的なものとは違う発達をすることがわかっており、医師や社会の見方も変わりつつあるようだが、娘の将来への不安は拭えない。そんなところも美月が離婚に踏み切れない理由の一つなのだろう。

「子供たちに手が掛からなくなって、私が死んでも娘が一人で生きていける状況になっていれば、離婚もあるかもね。その頃まで秀司さんはしっかりと茶飲み友達でいてね」