美月の長女は症状が軽く、はた目からは「個性が強くて元気な子」程度に思われているらしい。だがそれが問題だとも言う。自分が社会や人間関係に上手く対応出来ない人間だと知ったときの自信喪失が本人に与える影響は大きい。
また今の日本の教育制度の中では、周囲と同じ事が出来ないのは手間の掛かる「悪」であり、個性や特殊性は尊重されない。いつも集団行動を強いられ、同調する力を鍛えるのが日本の学校教育の思想なのだ。
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仲の良い友達同士でグループを作りましょう
桜ちゃんは養子らしいよ、だからみんなと違うのよね
転校してきた雄司くん、いつも同じ服をきている
マリアちゃん、色黒いよね、黒人とのハーフだって
周りの人たちと同じ行動をしましょう
こうして周りの空気を読む能力が磨かれ、周りと違うことを極度に恐れ、個人の正義感や意志より周りと同じ考え方をして同じ行動を取ることを良しとする人間が「順調に、普通に」大人になっていくのが日本の社会なのだ。
普通とは何だろう。
権力を持った一部の人たちが扱いやすい人間、つまり同じ考え方を持って周囲に迎合する人間を大量に作り出すことで、異端の意見や意志を抹殺し権力を維持しやすいように教育や世論を操作していこうとしているのであれば、そういう大衆のことを「普通の人間」と定義し、そうなるのが大人になることと仕向けているのかもしれない。
長女の個性をきっかけにそんなことまで考えて、自分が我慢することで家族の平和を出来るだけ維持したいとして離婚に踏み切れずにいた美月だったが、あることをきっかけに真剣に夫との関係を考えるようになった。