愛しき女性たちへ
三
夫がバランスを崩したきっかけが何だったのか美月はよく覚えていないが、秀司と知り合った頃には明らかにメンタルを病んでいると思われる状態だった。
「美月とチビたちは俺の寄生虫のようなものだ。病気でも事故ででも、いなくなればいい」
「嫌いなものに接しているとストレス溜まるから家族に会わないように自室に引きこもっているんだ」
「俺の理想通りの完璧な家事をなぜ出来ないのか」などと夫から毎日のように言われ続け、美月が、
「フルタイムの仕事に加えて子供たちの食事や勉強や洗濯が大変で……」などと言おうものなら即座に、
「また言い訳か」
と自分の部屋に引きこもり、壁を叩いて「クソッ!」などの声が聞こえてくる。
いつ自分が暴力を振るわれるか、子供たちの身に今後何か起こるのではないかと不安で夜も眠れなくなり、別居や離婚も視野に入れて姉や両親にも相談した上で、
「わかりました。私はあなたの理想の妻にはなれそうもないみたい。あなたが別れたいのなら離婚しましょう。準備を始めるわね」と言ったら夫は土下座して、
「本当は離婚なんてしたくない」
と言って泣き出したりするのだ。