これはただのモラハラではなく、精神的な障害があることを確信し、夫に心療内科に一緒に行くことを提案したら激怒されたので、それ以来その話は出来ないでいるうちに同じ会社の事務の若い女性との浮気も発覚した。
美月は特段驚きもしなかったが、この状態をいつまで続けるのか、しっかり考えなければならないと思うようになった。
子供たちはまだ小さいし、夫の本心から出ている言葉ではなくて何かしらの病気が言わせていることかもしれない。いつかちゃんと診察を受けて薬を飲んで落ち着けば元の優しいパパに戻るかもしれないから……。
そう思って美月も頑張っているが、そういう泥沼にはまったまま抜け出せないような陰鬱な毎日を過ごす自分と、早く離婚して新たな人生を踏み出したい自分の間で気持ちが揺れ動く。
本来は明るくよく笑う美月だが、この頃は子供たちの前でもため息をついたり暗い顔付きをすることも多くなり、夫が帰ってくると萎縮している自分にも気付いている。このままでは自分も病んでしまうのではないかと不安を感じ始めていた。
たまには仕事と家族に縛られる毎日の辛さを忘れるような息抜きもしたい。夫や将来のことを考えずに一人の女性として過ごしたい。自分を発散する時間と場所が欲しい。少しでいいから……。
美月は孤独だった。そんな孤独な心がたまたま気の合った秀司への想いに繋がっていったのだろう。
美月は秀司には、子供たちがまだ小さいから、私が我慢すればいいことだから、と言っていた。子供がいるから、どんなに酷い夫でも、どんな状況でも母親が辛抱して耐えなければならないのだ。
この国では子供は社会で見守り育てる、という考え方が無い。
子育てや教育は伝統的役割分担として女性に押し付ける。実は伝統でもなんでもなく、江戸時代までは男性も積極的に子育てに係わっていたらしいのだが。