初めての子は洗ってくれる
『もしかしたら濡れるかも知れない』と言ってビニールカッパ渡された。メグ先生、白衣脱いでTシャツ一枚になってハルを抱きかかえて、本当に大事そうにステンレスのお風呂に入れる。
『気持ちいいぜ、よしよし』って、ゆっくり泡立てる。
ハル、ブルブルするから先生はジーパンまでびっしょり。
『いけね、着替え忘れた』ってスマホで着替え頼んでた。
ガラスで仕切った向こう側で、トリマーの由美さんが、毛足の長い大きな犬の床屋さんやってた。
『あまり上手じゃないけど、毛の処理くらいはするよ』って、メグ先生、ハルを乾かしながら、ブラッシングして、飛び散る毛は、壁に繋がっている掃除機のホースですいすい吸いながら。うちのハル、あっという間に綺麗な犬に。
あまりにカッコいいから、先生おいくつですか?って聞こうと思ったら、先生、お幾らですか?と言い間違えちゃたの。そしたら、先生、ぷっと噴き出して、『そうね、十億はもらおうか』って」。カナ、自分でも分かるくらい真っ赤になったんだって。
「聞いていたトリマーさんの由美さんが、『もう少しカットが上手くなったら、そのくらいの価値はあるかな』って大笑いしていた。
『最近、教えてもらってねえからなあ』ってメグ先生がため息つくと、由美さんが突然、『カナちゃんママと、ハルちゃんですね』って言うのよ。
何で私たちの名前を知ってるんだって驚いたら、
『その人はね、予約した患者さんと飼い主さんの名前と写真をこのモニターやスマホでスタッフ全員に即座に知らせてくるの。
トレーニングに来てる子と飼い主さん、保護した子の名前まで頭に入れろって。町で会ってもママやパパへの対応は絶対丁寧にって。それを少しでも忘れているようならビシッと言われる。
悔しいけど、メグが覚えてるから文句言えない。メグはメモ魔で……。あっ、そんなことよりカナちゃん! メグ、三十三だよ』」
『お前、余計なことを、お前だって似たり寄ったりだろ』って先生、言い返してたけど、由美さんも恵美さんみたいに先生のこと呼び捨てにしてる。
彼女ですか?って聞いたら、二人はまたまた爆笑。『ひどいだろ? ここは、学生時代の仲間が多いんだ。そいつらみんな、呼び捨てにするんだ』って、先生、苦笑いしてた。
『ちょっとハル君連れて、先に診察室に戻ってて、着替えもまだ来てないし、俺もシャワーして行くから』って。えっ、どこでですかって聞いたら、ステンレスのバスタブの横にあるさっきハル洗ってたシャワー指さして『あそこで多い日は二回くらい』って。
『それ時々見てる』って由美さん言ったら、『アッ! セクハラ、見るなよ』って、なになにこの二人?って疑うわよねえ」
カナはあたしが言ったメグ先生の匂いのこと思い出して、
「先生、コロンは何付けているのっ?」って聞いたら、