気になるイケメンは獣医

あの人、毎日のように午後六時過ぎに来る。

百八十センチを超える上背。いつもジーンズにTシャツ。冬はトレーナーの上に革ジャン着てくる。体はガッシリ、筋肉質で胸板も厚くて腕も太い。お腹は引き締まってる。でも、ボディビルダーみたいじゃない。なんかほっそりとも見える。分け目なしでふんわりとした短髪。

かなりのイケメン。多分、誰にも嫌われない顔してる。いつもニコニコしてる。歯がとっても綺麗。話しても楽しい。あたしのこと、あやちゃんって、すぐ覚えてくれた。いつも何とも言えない石鹸みたいな香り。何つけてんだろう。

あたし、後藤あや、このお話の語り部になるね。

ここは東京駅から普通電車で一時間ちょっとの、とある町。山から海、川まである。町には緑も多い。駅前はずいぶん開発されたけど、それでも高層ビルがあるわけではなくて、温暖で気候もいい。大学までの途中の中華料理店「久松」でのバイトが一年経とうとしてる。

もともと、市内に住んでるし、電車通学と言っても大学までだって一駅、ドア・ツー・ドアで三十分もかかんない。本校は東京にあるF級私立大学で、二年前、地元の山側にできた文系キャンパスに通っている。塾通いもして、真面目に勉強してきたつもりなのに成績は今一つ。いつも、真ん中よりだいぶん下。何でかなあ。

うちは典型的なサラリーマン家庭。両親は同じ有名私立大学の出身。ママはいろんな趣味にはまって、忙しくしてる。パパは大手電機メーカーの人事部長。パパが買った八十平米のマンションで暮らしている。あたしは、いわゆる、そこそこの〝いいとこの娘〟になるんだろう。

でも、お小遣いくらいは自分で稼がなきゃ親に申し訳ない、と思ってバイトを始めた。バカだけど、真面目なんだ。

「それは嬉しいけど、彼氏ぐらい、いないの?」と両親は別な心配している。