バイトに選んだのはちょっと古い町中華 「久松」。だって家庭教師なんて、あたしが教えてもらいたいくらいだし、コンビニは機械化が進み過ぎてて、何だか怖い。お札、機械に入れて、お釣りもボタン押して、自分で袋に入れるなんて嫌だな。やっぱり人には接していたい。

久松は土日休みで営業時間は午前十一時から午後八時まで。途中一時間の休憩。大学の先輩たちがバイトでずっとお世話になってるって聞いたから、気楽に応募した。

いつも愚図なあたしだけど、一番乗りだったらしく、おじちゃん、おばちゃん、何のためらいもなく、受け入れてくれた。おじちゃん、おばちゃん、若い頃は美男、美女だったろうなと思える人。もうすぐ六十歳。でも、話すと田舎者丸出し。そのギャップが凄い。

もう三人、大学の先輩がアルバイトに来てる。やっぱり市内の人たちで、二年生の時から来てるんだって。

「ここはお客さんたちもいいの。F大生もいっぱい来るよ。教授とか職員の人もよく来るの。それにバイトも都合が悪くて来れない時は、友達に頼めばいいって言ってくれる」って先輩が言う。

「夜は八時まで大丈夫? お昼は絶対来て。あとは授業がない隙間時間とか授業が終わった後に来てくれれば助かる。昼も夜もまかないは出すからね。そこの大きなシフト表に来れる時間帯に色塗ってくれればいいから。誰かしら三人は来てくれればいいから、その辺は四人で話し合ってね。来れない時は友達に来てもらってくれればいいから」っておばちゃん大雑把。

でも、「授業は絶対に休まないで」って念を押された。時給は世間相場よりちょっといい。日払いでありがたい。

あたしの出勤初日からあの人が六時過ぎにお店に入ってきた。

「メグ先生いらっしゃい」っておばちゃん嬉しそうに言う。

「お昼に朱美ちゃん、卵ちゃんと一緒に来てくれたのよっ」て言うと、

「うん、ご飯がなくなっちゃったんだ。昼前って言うのに、元央と裕司がお握り食わせろって、女房も連れてきた。子供が学校行ってる間のデートだそうだ。朱美も働いてたから、お好きに作ってなんて言ったら、ご飯空っぽ。俺は家で待機してなきゃならないから、朱美だけここに来させて、俺はジャガイモの茹でたのを二つに塩辛ですませた。ああ腹減った」メニューなんて見ないで、

「今日はサンマーメンが無性に食べたい。それから半チャンと餃子二人前ちょうだい」「あいよ、あんたー、メグ先生、サンマーメンに半チャン、餃子二人前」っておばちゃん言うと、

厨房からおじちゃんが、

「昼は芋だけだったんだって、朱美ちゃん心配してたよ。すぐ作っから」

本当に美味しそうに食べる。先輩たち、じっと見ている。モリモリ食べるけど、食べ方は下品じゃない。そしたら、

「みんなも食うか? 御馳走するよ。旨いぞ」