第二章 ピカデリーホテル

傍のお付きの女性達の鼻をすする音が、静かになった王子の部屋に響いた。静かな時間が過ぎ、落ち着いた王子が涙目で「小さい頃から世話になり、一緒に遊び、大好きだった……」と小さい声で呟いた。

「分かった。私達と一緒に国へ帰ろう!」と言われ、「英国四井物産の件を宜しくお願いします」と言われた。カラムが「早速!」と返答し立ち上がり後ずさりしながら退出すると、ハッサム達もそれに続いて部屋を出た。

カラムは部屋へ戻ると直ぐ秘書に英国四井物産へ電話するように指示をして待っていると、英国四井物産の支社長が電話口に出て、「支社長の高垣ですがお電話を頂き恐縮です。又有難うございます」と丁寧に挨拶され、「ご用向きは?」と聞いてきた。

カラムは、「アラブ首長国連邦の財務副大臣のカラムです」と自己紹介し、「ロンドンに我々が滞在中なのはご存じと思いますが、王子が是非お伺いしたいとの強い意向で何とか明日社長とミスターショウ・カツ氏のお時間を頂きたい。大変忙しい中、急で申し訳ないが……」と申し入れた。

高垣は王族事件の事は良く分かっていたので、「分かりました、勿論当方からお伺いしますが、ショウはスコットランドへ今出張中なので明日戻れるか分かりません! 明後日なら間違い無く一緒にお伺い出来ますが!」と返事した。

カラムは「明後日には国へ戻っているのでお会い出来ません! 何とかショウ氏に遣り繰り頂き、明日会えるようにお願いしたい」と懇願した。

高垣は此処で言い合っても埒が明かないと思い、「分かりました。王子様のご意向を伝えショウへ何とか戻るように促してみます」と返答し「何時頃伺うのが良いでしょうか?」と聞いた。

カラムは出来るだけ遅い方が翔にとって戻り易いと考え「四時頃では如何ですか?」と聞いた。そして王子の意向でお伺いするので、お見え頂く無理をされる必要は無いと話した。