第一章 劇場

「高垣さん、うちの提案は先方の意向に合ったgoodな提案だと思うのですがどう思われます? コストですかね?」

「西田君、そう簡単にはOKしないさ! 先方も幾つかの社から提案をもらっているようだからそれぞれを良くチェックした上でいいとこ取りのカウンターオファーが各社に飛んでくるんじゃないか? 勿論コストもだけど……」

「翔! お前はどう思う?」

「そうですね、先方とのヒアリングとミーティングは何度かしましたが、正式オファーは今日が初めてなので先方の受け止めは良く分かりません。でもセキュリティシステムはうちの最も得意とするフィールドなので、他社に後れを取る事は無いと思います。直ぐ先方の取引先等に行って情報収集します! 何が決め手になっているか未だ分かりませんからね!」

「そうだな! じゃあ高垣さん、是非此処は今日のプレゼンの成功を願って乾杯しましょうよ!」と西田は高垣の方へグラスを向けた。

「よし! 乾杯しよう! 此処のシャンパンは中々旨いんだ、乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」

「翔、ところでさっきから何か浮かない顔してるな! 一体どうした? 今日のプレゼンは上手くいった方だと思うぞ!」

「西田さん、いや、プレゼンの事じゃなくて、何か、チリチリするんですよ!」

高垣が不思議そうな顔をして「翔、チリチリってどういう意味だい?」

西田は、高垣の方を向いて「高垣さん、翔は感覚が鋭くて、前に翔と一緒にゴルフをした時でした、次のホールへ歩いていたんですが、急に翔が私を突き飛ばしたんです! そしたら私達が立っていた所をゴルフボールが飛んで来て危うくでしたよ! あの時、翔に突かれて倒れなければ腰に当たって痛い目をしてましたよ……なあ翔!」

翔はその話を聞いてるような聞いていないような顔をして何処か遠くを見るような顔をしていた。

「な! 翔!!」「そうでしたね! ところで高垣さん、バンドの近い席に座っている六人のリッチな雰囲気のグループはえらく目立ちますが何処かの有名な方でしょうか?」

「ああ、俺も来た時に気になっていたんだが、今朝のニュースでアラブの王子・王女がロンドンへお忍びで訪問していると話してたから多分それじゃないか? 背広を着たいかつい男達はボディガードだろう!」

ロンドン市内のキングスクロスより少し離れた劇場街の一角を占めるビッグバンホールは、市内一の豪華な劇場ホールで幾つかのシャンデリアが天井に点々とぶら下がり、ステージを半円形に囲んで階段状になった各々のフロアには、楕円形の見事なテーブルが幾つも配され、各テーブルの真ん中にはローソク風のペンダントライトが落ち着いた灯りで光っている。