第一章 劇場
ジャイルズがビートルズのスーパーナンバー「ロックンロールミュージック」の演奏を始めると会場がビートで激しく揺れ、床が鳴り、頭を振り、立ち上がって声を上げる人達が増え、会場内は最高潮に達した。まるで嵐の中で揺れる船のようになった時、王族を見ていた一人が翔達のテーブルの上三~四段上がった先のテーブルに居る三人の男のグループへ向かって指で小さく円を描いた。
すると凄まじい殺気を感じ、上の三人のテーブルへ振り向くと二人に挟まれて隠れるように居た男がスローモーションのようにテーブルの下からハンドガンをゆっくりと出すのが見えた。
翔は、強い殺気を感じた時無意識に握ったフォークを手首からこねるように凄まじいスピードでハンドガンを持つ男へ投げると一気に立ち上がり一瞬で前のテーブルを押し倒しながらその弾みを利用して、大きく足を広げムササビのように王族テーブルへダイブした。
ほぼ同時にハンドガンの凄まじい音が周囲に鳴り響き、翔は左の肩と耳に激しい熱さを感じた。王族のテーブルに座って驚いて振り向こうとした王子・王女の頭を両腕で抱きかかえ、広げた足は両脇のボディガードの頭に向かいそのまま落ちるように食べ物が溢れているテーブルの上に落下するとガシャンという激しい音と共にテーブルごと床に倒れ込んだ。
と同時にフォークが刺さった顔を押さえた男が凄まじい咆哮を上げながら王族達のテーブルへ何発か撃ち込んだ。更に何事か叫んでハンドガンの引き金を引き続け天井のシャンデリアを激しく撃ち砕き、辺り一面ハンドガンの音が大きく鳴り響いた。
少し暗くなったのを見計らって男三人は目を押さえた男を引きずりながら、ハンドガンの音とシャンデリアの落ちた凄い音で会場がパニックになった隙をつき、その場にハンドガンを投げ捨て、逃げまどう人の波と音にまぎれて出口の方へ走って逃げた。
高垣と西田は、倒れ込んできたテーブルに押され、激しく割れ響くガラスの音とハンドガンの音を聞きながら床へ崩れ落ちた。
ハンドガンの男が撃った弾は翔の肩を掠め、耳を撃ち抜いた。翔の広げた足で引っ掛けられたボディガードの一人は右の肩を撃ち抜かれ、ステージ側に居たボディガードの一人の首筋を撃ち抜き激しく血が噴き出ていた。
ステージに居たジャイルズのギターリストも腰を撃たれ後ろに弾き飛ばされたがソリッドギターのお陰で深い傷とはならなかった。