第一章 劇場
蹴られて意識を取り戻し、仰向けに転がった姿勢のままの翔は急に肩と耳が激しく痛み出した。顔の左から肩にかけて血で真っ赤になって痛みと共に痺れが来ていた。ホールは、飛び交う悲鳴と罵声に加え、人々が出口へ一気に殺到しそこかしこで何かが壊れる音が響きホール内は混とんとしていた。
高垣と西田はテーブルと一緒に飛ばされ倒れていたが、何とか立ち上がり周囲の惨状にあっけに取られながら高垣は直ぐ翔の姿を探し、下の王族テーブルの床で頭や顔全体を真っ赤にして横たわる翔を見つけ、西田と二人大声で
「翔!」
と叫んだ。翔は声のした方を向いてニヤリと笑い寝ころんだまま
「高垣さん、西田さん大丈夫ですか?」
と逆に聞いてきた。高垣と西田は転がったテーブルや椅子を乗り越えて翔に近づくと高垣が手を伸ばして翔を立ち上がらせようとしたが力が足りず座り込んでしまった。
「翔! 大丈夫か? 顔も首も真っ赤だぞ! 未だ耳から血が結構溢れている!」
「少しふらふらしますが、耳が聞こえにくいのと左サイドが痺れているだけで何とか大丈夫です。ラグビーの怪我よりずっと軽いですよ!」
と無理に元気な振る舞いを見せる翔を見て同じラガーマンの高垣もホッとした。
「全く、凄い事になったな! 西田! 翔の右側で肩を貸してやれ! 此処を直ぐ出よう!」
ハイウエイに乗り入れインペリアルホテルを目指す車の中でボディガードチーフのハッサムは撃たれた右肩を庇いながら真っ赤な王女の顔を見つめ震えていた。何とかホテルまで持ってくれと祈り、助手席に座るヨシムに
「ホテルへ連絡し地下の車寄せの警備を増やし同伴しているドクターに車寄せの前で待つように伝えろ」
と指示した。右肩の血は未だ流れていたが痛みより万が一の恐怖の方が上回っていて、変わらず震えは止まらなかった。
ヨシムは電話を終えると後ろのボディガードカーに乗るマサイの様子を聞いた。マサイは胸を撃たれたがボディアーマーのお陰で激しい痛み以外は無いと苦しそうに応えた。ヨシムは直ぐにマサイへ先に飛ばして先着しもう二度と事故が起きないように万全のチェックをして我々の到着を待つように伝えた。