ボディガードカーは王族の車を抜き凄まじい速さでホテルへ向かった。‍車がホテルの車寄せに着いた途端、周囲を十人近いガードマンが外向きに並んで車を囲み、ハッサムはドアを開け転がるように飛び出ると血で真っ赤に染まった王女を左手で優しく引っ張り出しヨシムが抱きかかえるようにして、急いでエレヴェーターの前で待つドクターの処へ連れて行きエレヴェーターの中の豪華なカウチへ横たえた。‍

ドクターは余りの酷さに呆然としていて、ハッサムは真っ青な顔をした王子の手を引っ張るように同じエレヴェーターの中へ乗り込んだ。‍エレヴェーターの中は、王女の真っ赤な顔とドレスを見てみんな声が無く震えている者もいた。しかしドクターは直ぐ我に返り、王女の目を覗いてしっかりした眼差しを確認し大怪我はしていないと確信した。‍

エレヴェーターが着いてドアが開くとカウチは皆にかかえられて豪華なスイートルームの中へ運び込まれ、王子はカウチの傍を片時も離れず王女の手をしっかりと握っていた。二人とも無言だった。‍部屋へ入るとドクターは直ぐ熱いお湯とタオルを持って来るように指示し、優しい声で王女に

「何処が痛いですか？」

と尋ねた。王女は

「何処も痛くない！」

と応え起き上がろうとしたがドクターに優しく手で押されて又カウチに横になった。‍届いたタオルをお湯に浸し、優しく王女の顔や首回り前髪辺りの血を拭き取りタオルを脇の女性へ渡し、両手で頭や顎・首回りを探り何も悪いところを触った感触が無いのを確認し、ホッとして座り直した。そして

「王女様は大きな怪我はされておりません！」

と言うと王子が明るい顔をして再度王女の手をしっかり握り、周りの人達もホッとして緊張の輪がほぐれていった。

‍ドクターが王室付きの女性達に王女様と王子様をそれぞれのバスルームへ連れて行き、汚れを取るように指示をした。すぐお付きの女性達が動き二人を各々のバスルームへ連れて行った。‍

ボディガードチーフのハッサムは部屋の外でそれを聞いてホッとすると猛烈な痛みが肩を襲いその場にしゃがみ込んだ。‍ヨシムに呼ばれたドクターはその場でハッサムの肩回りをハサミでカットし大きく開けて、穴が開いて血が出ている肩へサルファ剤の粉のようなものを大量に振り掛け止血パッドで押さえ近くの助手に包帯できつく巻いて縛るように指示をし痛み止めの注射を打った。

痛み止めが直ぐに効いてハッサムは少し朦朧としたが、頭の隅で警備が万全の状態にあるか気になりヨシムを呼んで再チェックの指示をした。‍‍

アラブの母国では、国王の元へ王子と王女が襲われたとの第一報が届けられた。国王は直ぐロンドンへ飛び立つ旨の指示をして、宮殿を出ようとした寸前で王子と王女が無事で怪我もしていない様子との第二報が入った。

国王はそれを聞いてホッとした顔で国王車の豪華な席にへたり込み、十歳ほど老けた顔をして目の焦点がうつろな状態のまま大きく溜息をついた。

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