万一のことがあればその場所を売って別の場所に引っ越しすることもできるだろう。一方、三人でずっとその場所に住んでいられればよいという思いもあった。

千恵は、この先自分がいなくなっても義姉が近くにいることで、娘のことを安心して任せられると思っていたに違いない。

気に入ったマンションを仮予約した。もし、他の人がその場所を契約してしまったらと思うとまた他の場所を探さなくてはならない。気に入った場所が見つからず、今と同じ場所で、この先も千恵が今までと同じような生活を送れるとは思えなかった。

お金というのは、しょせん投影物にすぎず、お金で買える物は、それほど価値のあるものではないと思っている。できることは全部してあげたかった。残された時間はそれほど長くないのだから。

半年程度、自宅を売りに出すために内覧会を何回も行ったが、誰も購入する人はいなかった。震災の影響で、この場所に住みたいと思う人が激減した。震災以前は、転出や転入をよく見かけた。

やっとのことで、買い手が見つかり、翌年三月に都内に引っ越しすることが決まった。あれほど嬉しそうにしている千恵の顔を見たのは、久しぶりだ。千恵の願いが叶うよう、その時まで元気でいてほしい。

がんという病気に無知だったため、体調が悪くなったり、検査の結果が悪くなっていたりすると、直ぐに、

あと、どのくらい生きられるのだろう? 今度の誕生日は迎えられるのか? クリスマスは?お正月は三人で過ごせるのか? 都内の新居に三人で住むことはできるのか? など、おろおろと思い悩んでいた。