なかから方言会話が聞こえてくる。十人くらいの中年の団体だ。私は近づきながら、覗き込むように、誰にともなく聞いた。

「ここは、泊まれるんですか?」

「屋根があっから、敷物しきゃあ泊まれるっぺ」

タオルで鉢巻をした旦那だった。腰を下ろしている40歳くらいの女性に聞いてみた。

「どちらから来られたんですか?」

「友部です」

「茨城県のですか」

「ええ」

この女性は地下足袋だ。

「じゃあ、夕べ水上か湯檜曽に1泊して?」

「いいえ、友部を夕べ11時に出ました」

「え! 11時に。凄いですね」

横から中日ドラゴンズの野球帽をかぶった男が、

「なに、凄かねえさ。昔、30年も40年も前に山をやっていた者ばっかしよ」

「同じ会社か何かの人たちですか?」

「いや、近所の人たちさ」

菅笠をかぶっている人もいる。一番年長者のようだ。

「去年の夏、富士山に母ちゃんたちさ連れていったら、山好きになっちゃって、『また行こう』、『いつ行く?』って毎晩のように言われるんよ」

「良いですね」

「6組の似たもの夫婦が集まったんさね」

60歳くらいの人もいる。

「11時じゃ、夜通し代り番こに運転しながらですか?」

「いや、小型バスの運転専門の人がいて、その人は山に登ってこねっぺ。車のなかで寝ているよ」

そういえば、女性六人と男性五人だった。