そう言って、竹之下は部屋を出て行った。
午後六時を回っただろうか。辺りが薄暗くなり始めた頃、竹之下が心配そうな顔をして社長室に入ってきた。
「社長、何か連絡ありましたか」
「まだだ」
「そうですか、こんな恩知らずの銀行ってありますかね。日本広しといえどもこんな銀行はないでしょう。どうしてこんな銀行がメインなのですか」
「会長から聞いたことだが、今から50年以上前の話だ、松葉工業の前身の松葉金物屋の前の道路が拡張になるので、店を立て替える資金の融資を地元の銀行に申し込んだそうだ。
しかし、その融資に応じてくれたのは地元銀行ではなく、お隣の県の鹿児島第一銀行だけだったそうだ。それ以来、恩義に感じて鹿児島第一銀行オンリーで来た、ということだ」
「地元の銀行に、とことんお願いした訳でもないでしょう。たまたま、ひと通りお願いしたら鹿児島第一銀行が応じただけのことでしょう。そんなにいつまでも恩義を感ずることはないように思いますが」
「そうだな、30年ほど前、ゴルフ場を手掛けたときも厳しかったなぁ、鹿児島第一銀行は。当時、社長だった会長が始めたゴルフ場の建設途中になぁ、第一次オイルショックが起こって、貸出しが厳しくなった時期があった。
鹿児島第一銀行は約束した融資ができなくなった、と言ってきたそうだ。会長は、相当困った筈だが、俺にただ金を集めるだけ集めろ、と言ったよ」