三
秀司は結婚した以降も、何人かの女性と付き合ったことがある。
水商売の女性や風俗ではなく、素人の普通の女性、殆どは仕事関係で知り合った家庭のある女性で、いわゆるW不倫だ。大抵は仕事の区切りが良い時の飲み会などで意気投合し、酒の勢いでそのまま、或いは後日二人で会うことになり、大人の関係に発展するというパターンである。
大きな建設プロジェクトや都市再開発事業では、施主あるいは権利者で構成される再開発組合、施主代行のコンサルタントや金融機関、設計事務所、ゼネコン、行政機関など多くの組織から担当者が集まって定例会議を開催して事業を進めていくことが多い。
秀司は信託銀行の不動産コンサルタント部におり、取引先の様々な企業の不動産や建築の相談に乗る中で、企業所有の不動産の有効活用事業などで施主代行という立場で開発事業に携わることも多かった。
その場合は会議体のメンバーの中では当然ながら発言力が強く物事の決定権者となるので、会議体のメンバーからは尊重されることになる。
もちろんプロジェクトの進行具合は逐一施主に報告しお伺いを立て了解を得る作業を繰り返さなければならないが、ほとんどの施主は事業採算にしか興味は無く、プロジェクトの社会的意義や建物のデザインが社会に及ぼす影響には関心が無い。
採算さえ見込めれば、ある意味秀司の胸先三寸で方向性が決まるので、大学で建築や都市計画を学び、優れたデザインの重要性や街づくりの理想を持っていた秀司には楽しい仕事である。
奈保子とはある大型の建設プロジェクトで知り合った。
複数の権利者の意向を纏めて行政と折衝をするコンサルタント会社の担当者として奈保子は事業の初期段階から携わっており、秀司との仕事上のやりとりも多かった。黒髪のロングヘアーで背も高く、大抵黒いパンツスタイルで、特に秀司のタイプというわけではなかったが、張りのある体付きが魅力的な人目を引く女性だった。
【前回の記事を読む】酒に酔っては母を叩いていた父。襖の隙間からその恐ろしい光景を見て、耳を塞いで耐えていた姉と私。そして、突然父は死んだ
次回更新は8月17日(土)、20時の予定です。