席の後ろに静かに灯るスタンドライトの光も手伝って、女性たちが益々美しく見えるのだ。
「お化粧を直してきます。お席で待っててね」
幸恵にそう言われ、男性のフロアスタッフに案内されて席に着く。
幸恵との付き合いは三年ぐらいになるだろうか。以前は銀座八丁目の「樹里」というクラブにいたが、二年ほどで「モナミ」に移った。
街でスカウトされたり、お店のママやチーママクラスの女性から他の店での経験を促されることもあるらしいが、お店を移るときは客のボトルも一緒に引っ越しをするのが銀座のクラブのルールだ。
確実に客も連れて行く、ということで、ホステスのスカウトは銀座では重要な、一種確立された職業でもある。
もともとクラブの客はそれぞれの女性ホステスの客であり、プロのホステスはクラブという場所を借りて個人営業をするという立付けなので当然と言えば当然だが、御無沙汰している客に連絡を取るきっかけにもなるし、新しいお店にご案内するのでお祝いして下さい、というメッセージが色々な客に送られることになる。秀司もその一人だが、そろそろ限界を感じていた。
「樹里」も「モナミ」も、最低でも五万、ボトルを入れると七、八万は掛かるし、幸恵とこれ以上の親しい関係になるのは望み薄だ。今日で最後にしようと毎回秀司は気持ちを固めていたが、酔うとそんなことも忘れてしまう。
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次回更新は8月15日(木)、20時の予定です。