愛しき女性たちへ
二
「おねだりしてもいいですか?」
珍しく幸恵が耳元でささやいた。
「秀司さん、シャンパンを頂いていいですか?」
今日は幸恵の誕生日で、食事をしながらシャンパンと白ワインを飲んだが、お店でもシャンパンを飲み直したいと言う。幸恵の誕生日でもあり、新しいお店への初出勤の日なので、お店へのアピールもあるのだろう。
いずれにせよ幸恵がはっきり言うのは珍しい。ダメだと言うわけにもいかず了解したが、最低でも七万円だ。今夜の「モナミ」の支払いは十二、三万円になるだろう。
秀司は銀座の夜が好きだ。会社の接待などで色々な店を利用してきたが、今はそのような立場ではなく、接待されることも減った。
そんな場所に自分のお金で通う身分ではないことは十分わかっているが、自分を担当してくれている綺麗な女性と連れだって上質な食事と酒を頂き、同伴先の店ではうやうやしく扱われる。
つまり容姿も会話も一定以上に洗練された女性にモテたつもりになって、自分は一流の男だと思いたいのだろう。交際費を多く使える企業の営業なら一流の店を知っていることは強みにもなるかもしれない。
事業が順調な個人事業主であれば、利益が出た時に多額の税金を払うくらいなら経費で遊ぶことを考え、たとえ女性にモテそうもない風貌でも店の女性は快く接してくれていい気分になれる。
そのような店の需要もあるだろう。以前は老舗呉服屋等の若旦那がクラブや料亭文化の担い手として遊んだのだろうが、最近はIT関連で成功した実業家や大きな利益を上げられた不動産業者などが主客で、三十代、四十代でも一箇所で百万円くらい使うのは普通らしい。