愛しき女性たちへ
二
食材はオーソドックスだが、太白胡麻油で上手に揚げられた天ぷらは素材の味が素材以上に生かされて、てんぷらは蒸し料理だということが良くわかる。
先付や造り、箸休めは大将が工夫した取り合わせと味付けで、必ず女性に喜ばれ、素敵な時間を過ごせる店なのだ。
二ヶ月先まで予約が取れない天ぷら屋、というのが銀座にはいくつかあるが、先日出向いた高村という店では、六時と八時半の二部制になっていて、終了時刻が近くなると次の客が待っているから、と退店を促される始末で、ゆっくり食事や会話を楽しめる雰囲気はまるで無かった。
有名になった店にありがちなことではあるが、じきに客足も遠のくだろう。
そこへいくと「おおたけ」は極めて居心地が良く、いつまでもこの雰囲気を失わずに頑張ってもらいたいと秀司は思うのだった。
また、いくら食事が美味しくても、いつも同じ物を出していては飽きられる。眼も舌も肥えている銀座の客にリピートしてもらうには、創意工夫が必要だ。
今日の箸休めは真鯛のカルパッチョにトリュフをあしらったサラダ風のもので、幸恵も「美味しい!」と思わず声を上げている。そういう部分でも「おおたけ」は女性を連れた秀司を極めて満足させてくれる店なのだ。
「お酒を少し楽しみたいのでつまみを適当に。その後でお任せで揚げてください」
そしてシャンパンのハーフボトルを開けてもらい、幸恵の誕生日の乾杯をした。
真鯛のサラダはトリュフの薄い塩味と絡まって絶品だった。さらにシャルドネのボトルを開けてもらい、一月中旬だったが、走りと言うのだろうかタラの芽やフキノトウの天ぷらを味わった。初春の苦みが最高に幸せな気分にしてくれる。
「美味しい。幸せ」