毎年のように行っていた人間ドックの検診結果を病院に行って確認したかったが、やめた。今更何を言っても始まらない。妻ががんを患うなんて思ってもみなかった。
がんと宣告される=死を宣告されると思い込んでいた。私の身近にいたがんを患った人は皆亡くなっていた。千恵は、会社に勤めていた時、仲の良かった先輩が若くして、乳がんで亡くなっているのを目の当たりにしていた。
車を運転している最中、この先、どうやって生きて行けばいいのだろう?など思いを巡らしていた。
自宅に戻り、千恵は、
「あと、どのくらい生きられるかな? 彩ちゃんの小学校の卒業式までは生きられるかな?」
「彩ちゃんの成人式も結婚式も見られないんだね」
千恵と肩を寄せ合い、一緒に泣いた。私は、
「以前、大きな病気を患った時だって、医者から死を宣告されたって、今こうやって生きているじゃないか! まだ死ぬと決まったわけではないんだから、一緒に頑張って克服しよう!」
「うん、分かった。頑張ってみる!」と千恵も言ってくれた。心がまだ折れていないことだけが救いだった。
その日、午後から出社するために、会社の上司に電話を入れた。電話をする声が詰まって出ない。
「どうした?」と上司から声をかけられた。
「家内が病気になってしまいまして……」
「午後から出社します」とだけ言って、電話を切った。
【前回の記事を読む】「三十歳の誕生日に医者から死を宣告されたことがあるんだ…」結婚前に妻からの告白。気にしていないと即答したが…
次回更新は8月14日(水)、16時の予定です。