冬の訪れと卒業式

ある日、千恵が、「私、三十歳の誕生日に、医者から死を宣告されたことがあるんだ」と言った。

見た目からは想像できなかった。

「ふ~ん、でも今はこうして元気になっているんだから、過去の病気のことは気にする必要ないんじゃないの」

「私は、身体が一部、不自由で、いろいろと迷惑かけてしまうことも多いと思うよ」

「結婚する前に、本当のことを言ってくれてありがとう。いいよ、迷惑かけても、全く気にしていないし……」と即答したが、内心穏やかではなかった。

体を動かすことが好きな私と何でも一緒に行動を共にできるのか不安な点もあった。ただ、当時聴いていた音楽やドライブ、公園で遊ぶ等の趣味は同じであったこともあり、この人となら生涯を共にして生きていけると思った。

結婚式一週間程前から些細なことで喧嘩をし、お互い連絡もしなかった。結婚式当日は式が挙げられるか、正直なところ分からなかった。

もし、式場に行って千恵がいなかったら、結婚式に来ていただいた来賓の方になんて言い訳しよう? 会社の上司や同僚も大勢呼んでしまった。いなかった場合の言い訳をずっと考えていた。

結婚式当日に式場に行くと、千恵はいた。

「やあ、久しぶり、来ないかと思った」と千恵は言った。

私も対抗し、「ここで何してるの?」と言い返した。

この先、本当にこの人と生涯を共に暮らしていけるのか?と少し疑いを持ったが、今更手遅れであり、なんとかなるだろうと思い直した。それより、結婚式場に来てくれた安堵の方が強かった。